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大学共同利用機関としての在り方 分子研リポート2007 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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(1)

点検評価と課題 321

7-5 大学共同利用機関としての在り方

7-5-1 はじめに

分子研創設以来30年以上が経ち,その間における学問の発展状況を鑑みると共に共同利用研究体制の充実を目指 して,2年有余に及ぶ議論の後平成19年4月から大幅な組織再編を実行した。それと共に,国内における研究環境 の変化,国立大学等の法人化,国の財政逼迫等々の状況から,大学共同利用機関のあり方及び分子研のあり方を改め て議論しておくことの必要性を強く感じ,所内のみならず運営会議等においても議論を行って頂いた。議論の背景に は次の二つの状況がある:

(1) 30年前に比べて大学における研究設備の充実が進み「分子研に来なくては研究が出来ない」と言うほどの状況で はなくなった。

(2) 反面,最近の国の財政逼迫と共に,応用研究と短兵急な社会還元の要求,及び,技術的イノベーション重視の施 策からくる基礎学術研究軽視の風潮。

かかる背景においても,いや,かかる状況にあるからこそ,世界的にも大変ユニークな日本の共同利用研究体制を 守り発展させていくことは極めて重要であると考える。

1)

また,国家100年の計にとって「学術と文化」が如何に重 要であり,それなくしては日本の将来が危ないと言うことを強く訴えていく必要がある。

2,3)

国の高等教育や学術研究 への投資が先進国としては低すぎるのである。

大学共同利用機関としての役割には,①施設共同利用機能の中核と②頭脳共同利用機能の中核の二つがあると考え る。①は大学の研究設備の充実が進んだ中においてもなおかつ重要な役割を担っていると考える。研究設備の進歩は 日進月歩であり,新しい中・大型設備を大学共同利用機関に集中配備し,全国の研究者の利用に供することは依然と して極めて大事なことである。これと共に,「研究設備有効活用ネットワーク」の充実は焦眉の急であり,共同利用 機関がその中核的役割を果たすことが肝要である。②については,共同利用・共同研究の場を提供する拠点として最 初に建設された京都大学基礎物理学研究所(湯川記念館)の理念が示すとおり,共同利用機関は,全国の最先端の研 究者が一堂に会する梁山泊となり,独自の哲学を持って未踏分野を開拓し卓越した研究成果を上げて,分野をリード して行く役割を担う拠点となるべきである。

4)

以上を踏まえて,分子研のあり方について所内の検討委員会や運営会議等で行われた議論が次節以降にまとめられ ている。

1) 「新たな全国共同利用研究体制の確立に期待する」, 松尾研究会報, 財団法人 松尾学術振興財団, V ol.13 (2004). 2) 中村宏樹, 「先進文化国家日本を築くために」(上、下), 中日新聞, 2007年11月1日, 2日, 夕刊.

3) 中 村 宏 樹, 「 基 礎 学 術 研 究 と は?」, 中 部 経 済 新 聞, 2006年12月18日, 「 国 立 大 学 等 の 法 人 化 ― 日 本 の 将 来 は 大 丈 夫 か?」, 中部経済新聞, 2007年2月5日.

4) 中村宏樹, 「いい加減にしよう、西洋かぶれ」, 中部経済新聞, 2007年3月26日, 「独創的科学と東洋哲学」, 中部経済新聞, 2007年5月14日.

(中村宏樹)

(2)

322 点検評価と課題

7-5-2 系と施設の在り方等の検討(特に大学共同利用機関として)

平成17年度に,分子研の今後の進むべき方向とその受け皿となる研究体制(特に研究系及び施設の在り方)を探 るために系・施設の在り方等検討委員会が設置され,そこで議論された内容を報告書の形でまとめたところである(分 子研リポート2005, p.340,分子研リポート2006, p.286,分子研レターズ53(2006.3) p.14 参照)。今回,共同利用研 としての在り方についてさらに突っ込んだ議論をするために,委員会を再開した。今回の委員会メンバーは以下の8 人である。

青野重利(岡崎統合バイオサイエンスセンター教授,生命・錯体分子科学研究領域兼務) 魚住泰広(生命・錯体分子科学研究領域教授)

川口博之(生命・錯体分子科学研究領域准教授)

大森賢治(光分子科学研究領域教授,分子制御レーザー開発研究センター長) 小杉信博(光分子科学研究領域教授,極端紫外光研究施設長,委員会まとめ役) 中村敏和(物質分子科学研究領域准教授)

横山利彦(物質分子科学研究領域教授,分子スケールナノサイエンスセンター長) 斉藤真司(理論・計算分子科学研究領域教授,計算科学研究センター教授兼務)

前回,2年前の8人のメンバーの内,松本吉泰教授と森田明弘助教授の2人は転出したため,横山利彦教授,斉藤真 司教授に入れ替えを行った。また,2年前の検討に従って行われた再編により所属が全員変更になっている。

平成19年5月,6月にそれぞれ2時間以上の時間を掛けて議論した。その内容を報告書案としてまとめ,それを 元に各研究領域,主幹施設長会議,教授会議,運営会議で議論を行い,最終的に平成19年10月に本報告書を所長に 提出した。本報告書をベースに次年度,コミュニティの意見を聴取する予定である。

なお,自然科学研究機構等における分野間連携,国家基幹技術等への参画,産学連携などのように分子科学コミュ ニティを越えた新たな活動に関することについては今回の検討対象から除いた。

(1) 分子研の位置づけの変遷

30年以上前,大学で不可能な研究を実現するため分子研が作られた。研究部門や施設に採用された初代の研究者 達はそのことを強く意識しながら,機器センター,装置開発室,化学試料室などの研究支援組織を立ち上げるとともに, レーザーや磁気共鳴のような特徴ある中型機器に加えて大型施設としてスーパーコンピュータ,放射光源加速器を導 入することで,分子科学の新展開に中心的役割を果たしてきた。新規分子物性の観点で物質開発にも力を入れてきた。 分子科学分野の国際化にも顕著な貢献を果たしてきた。

分子研の際だった特徴は,研究者の内部昇格禁止の内規によって人事流動が活発に行われるために,広く大学に研 究成果が流動し行きわたることである。少数精鋭を基本として研究グループを構成してきたのも研究者及び研究分野 の流動性を意識したものであった。総合研究大学院大学での博士号取得者数においても分子研が担当する2専攻が目 立っており,大学院生の流動化にも貢献してきた。このように大学との活発な交流によって,人がどんどん入れ替わ ることで,研究内容を見直し,絶えず新しい取り組みができるように工夫されてきた。また,人の入れ替わりがあっ ても共同利用に支障がないように技術職員がしっかり支える体制を構築してきた。同じ意識で事務支援体制も形成さ れてきた。

その後,大学における研究環境の改善によって,汎用機器は必ずしも分子研の機器を共同利用しなくても済む時代 が到来した。そのような背景の中,分子研でも機器センター,化学試料室,極低温センターを発展的に分子制御レーザー

(3)

点検評価と課題 323 開発研究センターと分子物質開発研究センターに改組した。さらに岡崎共通研究施設として統合バイオサイエンスセ ンターを新設したり,分子物質開発研究センターをコアとして所内からナノサイエンスに関わる関連研究部門を分子 スケールナノサイエンスセンターに一旦集約することにしたりして,従来の研究施設の位置づけを大きく越えた組織 が生み出された。ただし,分子スケールナノサイエンスセンターは,平成19年度に行った研究所組織の再編の際, 従来の研究施設の位置づけに戻し,ナノサイエンス関連研究部門は4大研究領域に配置し直すことにした。それと同 時に研究施設として機器センターを再び立ち上げることにした。この機器センターの復活は,法人化後,国立大学側 で研究設備の維持更新が困難になっている状況を意識したものでもあり,現在,全国的に連携して研究設備の整備と 共同利用を図る流れが構築されつつある。

(2) 分子研の今後の在り方

大学共同利用機関は大学と関係がなくなればその存在意義を失う。また,教育再生会議の第二次報告(平成19年 6月1日)の提言4「国公私立大学の連携により地方の大学教育を充実する」の中の4項目中の1項目に「国際競争 力に勝ちうる大学共同利用機関への徹底的な支援を行う」とあるところからも,国際的にも各分野を先導するような 研究教育を推進し,コミュニティに発信していく役目がこれまで以上に大学共同利用機関に期待されている。分子研 が大学共同利用機関として分子科学コミュニティに貢献していくには,所内の研究者と所外の共同利用研究者の両面 から以下の (A )(B ) のバランスを考えることが特に重要である。

(A ) 組織として国際的に分子科学研究を先導していくのはもちろんのこと,個人レベルでも真に独創的な研究を生み 出すための特徴ある方策(大学等の若手研究者を抜擢して優れた基礎学術研究環境に置くなど)を打ち出してい くこと。

(B ) 分子研の研究成果を大学等に還元していくとともに,特徴ある研究設備を精査して組織的に整備し共同研究に供 していくこと。

以下では ( A ) ( B ) の面から今後の在り方について議論したことを記す。ただし,分子研の場合には,活発な人事流動を 通して所内と所外が入れ替わる,つまり ( A ) と ( B ) は密接に関係していることが前提条件になっていることを忘れて はならない。

①所内研究について

1) 基礎学術研究を中心に新しい研究分野を創出していく。萌芽的研究を開花するまでじっくり育てることのできる環 境整備を進める。失敗を恐れず新しい着想に基づいて未踏分野にチャレンジできる雰囲気にするには,短期的な成果 を求めることがあってはいけない。分子研がその新分野のメッカであると国際的にも認知されるように研究者の意識 を高めると共に組織としての取組みをも強化する。

2) 人事流動があっても揺るがないように,各研究領域を支える研究インフラを強固なものにする。

3) 4大研究領域はそれぞれ長期ビジョンを持って相互作用しながら新分野創成・人材育成に取り組む。個々の研究グ ループのことに加えて,これらのことに責任を果たせる教授の研究環境を整備・強化する。

4) 研究に集中できる環境にある准教授,助教の充実によって,優秀な若手の人材を登用し育成するチャンスを増やす。

(4)

324 点検評価と課題

②共同利用について

1) 現在所有の大型研究設備であるスーパーコンピュータ,U V S O R - I I 光源加速器,高磁場 N M R 装置は,世界的競争 力が保てるうちに,更新・性能アップサイクルを十分検討し,長期プランに従って戦略的に強化し続ける。一度,優 位的地位を失うと,再浮上することは難しくなるので,所内の関係者はタイミングを失することのないような長期責 任体制の構築に努める。

2) 現在所有の中型機器等は,更新サイクルを十分検討し,長期プランに従って計画的に更新していく。研究所の予算 配分方針として縦割り的な研究環境整備から共通基盤的研究環境整備にシフトする。

3) 次世代を支える若手研究者や大学院生に対する研究支援を強力に推し進める。所内外の若手研究者が各組織の枠を 越えて自然な形で将来の夢を語る場やブレーンストーミングの場を作り出せるように環境作りに配慮する。分子研研 究会や所長招へい研究会の弾力的な運用により,各専門分野で年に一回程度の縦割り的研究会ばかりでなく,分野に 限らず自由参加可能な国際的な分子科学研究者コミュニティの創成,活性化,交流などを頻繁に企画する。国際共同 を含んだ共同利用研究の支援を拡大する。

4) 各研究施設の高度な利用技術や新規開発技術などの講習会を各施設で随時,企画できるようにする。大学の研究者 の協力の下,基盤的な教育活動も推し進める。

5) 技術職員に対しては技術力向上を図り,絶えず,新しい技術にチャンレンジできる環境に置く。

以上の各項目は全所的に実行に移すことが理想であるが,順次対応可能な研究領域(施設を含む)から組織的に手 を付けていくことが望ましい。

参照

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